UCL RB ライプツィヒ×アトレティコ・マドリード 〜若き戦術家の前に散る。アトレティコ敗戦の理由〜

 

 

はじめに

クウォーターファイナル4連戦の2日目。この日のカードは若き戦術家の下、『縦に速い』だけではなくなり、ボールを持てるようになったRBライプツィヒと、シメオネと共に確固たる信念を築き上げ、強靭な守備で欧州最高峰の舞台に定着したアトレティコ・マドリード。「決勝ラウンドでロナウド以外に負けていない」というデータもあり、目前で何度も敗れ去ったビッグイヤーを手にできるとアトレティコファンは期待を高めていたはずだ。だがその夢も若き戦術家の前に敗れさられる事になった。RBライプツィヒはコンパクトなアトレティコの守備を見事に動かし、攻め込んでいった。では今回はナーゲルスマンが仕込んだ戦術に触れながら、アトレティコが敗戦に追いやられた理由を追求していこう。

 

スターティングメンバー

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動かさられて差し込まれる展開

いつも通り、アトレティコは4-4-2のコンパクトでソリッドな守備ブロックを形成。これにより、『守備からリズムを掴む』という「らしい」展開で試合に臨む。だがこの試合ではこのコンパクトなブロックの間に縦パスを差し込まれる展開が続いた。ではなぜこのような展開が起きていたのか。

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ライプツィヒの攻撃時の配置はこのようなものだった。表すのならば3-1-5-1。この形にこそがアトレティコのブロックの中に縦パスを打ち込まれる展開に追いやられた理由の1つだ。ライプツィヒはアンヘリーノとライマーが幅を作る事で、ザビッツァーとエンクンクをそれぞれライン間に押し込む。さらにこの2人が幅を作った事で両脇のCBがそれぞれコスタとジョレンテの脇のスペースにポジションを取れるようになる。これができるのもDMFカンプルが2トップの間に立つことでピン留めを行っているからだ。アトレティコはこの形をライプツィヒに取られ、4-4-2の弱点とされる(個人的な考え)『CFの脇』と『大外のスペース』を簡単に使われるようになってしまった。

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そしてCFの脇のスペースを使われる事でアトレティコはSHとCHが動かさられる展開に持ち込まれてしまう。さらにライプツィヒの配置によって、局所で数的不利に陥っていた。これにより、ライプツィヒは「出てくる選手」によってボールの動かし方を変える。

  • SHがプレスを行った時

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例えばSHがプレスに出た場合は幅を作っているアンヘリーノへパス。その時に中にポジションを取っているエンクンクは動かずにその場にステイ。これをする事でSHの背後を取れた状態を保ちつつハーフスペース兼ライン間にポジションを取る事ができる。このポジションを取られると困るのがSBトリッピアーだ。エンクンクを見るため、場所を埋めるためにその場にステイするのか、それとも幅を作るアンヘリーノへ牽制をかけに行くのかの判断を迫られる。

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そして前半の頭はこのようにSBが幅を作る選手にプレスに行く事が多かった。だからCHエレーラはSBトリッピアーが空けてしまうスペースを埋めるためにプレスバック。これでアンヘリーノ、エンクンクをある程度抑える事ができるのだが、厄介だったのがトップ下の位置に入ったオルモ。エレーラが空けたスペースに入る事で中央でパスを受ける。この時にCHエレーラはエンクンクがいるので充分なプレッシャーを与えれず、さらにサウールとカラスコはどうしても若干のスライドの遅れが出てしまう。これでアトレティコは中央を使われる展開が多くなっていた。

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だがアトレティコは中央にボールが入ると一気にそこを圧縮してボールを刈り取る事が多く見受けれる。しかしこの試合がそれができなかった。その理由が逆サイドのザビッツァーとライマーも中に入ってくる事で大外にスペースを作り、CBが上がれるスペースを作られて逃げられてしまうからだ。これはボールサイドに多くの人数をかけられたため、中盤の選手がかなりボールサイドに寄せられているからこのように逆のCBに逃げられてしまう。これでアトレティコは中央を圧縮できず、サイドに逃げられてしまう事が多くなっていた。

 

  • CHがプレスを行った時

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CHがプレスを行った場合は、このように中盤で段差ができて中央に差し込まれてしまう。そしてその中央ではCHサウールに対してザビッツァーとオルモで数的不利な状況を作られてしまう。もちろん、これを防ぐためにカラスコがスライドして中の人数を合わせる。

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そしてこのように中央を圧縮してボールを奪おう試みるのだが、ここでも開いてしまうのがサイドのスペース。ここへパスを出されてしまうのでアトレティコは中央でボールを奪う事ができず、最終的にクロスを跳ね返す事で守備を行なっていた。

このように中央に差し込まれればサイドを使われ、最初に中央を消せばサイドから差し込まられ、特に前半は後手の守備を踏んでしまっていた。そしてこの攻撃を受けて、アトレティコは前半の内に守備の修正を行う。

 

「動き」を極力少なく

アトレティコが行った修正。それを端的に表すのならば、『動きを極力少なくする』というものだ。ではこれはどのようなものだったのか。

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行った修正はボールサイドのSHがまず場所を埋めて幅を作る選手を牽制するというものだ。もちろん、SHが下がってしまうので、主にジョレンテがそのスペースを気持ち埋めつつ攻守のリンクマンの役割を果たす。これでアトレティコは5-3-2のような形になり、徐々にボールサイドを圧縮して奪えるようになったが、次の課題が浮き彫りになる。それが攻撃に移れないという課題だ。ではなぜ攻撃に移れなかったのか。

 

奪っても攻撃に移れなかった理由

ボールを奪う事が徐々にできるようになったアトレティコ。だがその先を見出す事ができなかった。その理由の1つとして後ろに重くなっていたからだ。これは致し方なく、ライプツィヒの攻撃を食い止めるためにコケが下がっていたからこのような状態に陥った。

そしてもう1つ。それがライプツィヒの守備によるものだ。

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このようにライプツィヒは守備時、4-2-3-1のような形に変形。この形がぴったりとアトレティコの攻撃に嵌った。CFとOMFでCHを1枚挟み込み、中央を経由させない。さらにCHの位置に入る2枚でCHエレーラと中に入るカラスコ(時にコケ)をマーク。これでボールサイドのSBにボールを出させて、SHの位置に入るエンクンク(またはザビッツァー)がプレスを行う。この時にバックラインでは3CBで2トップに対して常に数的優位に立ち、SBの位置に入るアンヘリーノが幅を作るSHをマーク。

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これでSBまで追い込まれるアトレティコはそこからのパスを狙われる。ライン間でボールを受ける選手がおらず、さらにはマークされて近くのパスコースを消されているのでSBからCFへのロングスルーパス、もしくは楔のパスの選択肢しかなくなってしまっていた。そしてライプツィヒは明らかにこのパスを狙っていて、難なく回収。だからアトレティコはボールを奪ったとしても攻撃に転じる事ができず、ジョアンフェリックスの投入まで効果的な攻撃を仕掛ける事がほとんどできなかった。

 

失点に繋がってしまった修正

前半は0−0で折り返した両者。だがやはり一発勝負となったUCLと言うべきか、アトレティコの1つの修正でライプツィヒに先制点を奪われてしまう。ではどのように修正した事で先制点を奪われてしまったのか。

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まずこの修正の意図として、前半コケを少し下げた事で攻撃に転じる事ができなくなっていた。だから攻撃に移れるように、3CH気味で守備を行う。これをした事でカラスコを少し高めに配置でき、カウンター時の人数を揃えれる可能性が高まる。だからコケをかなり中央に寄せ、サイドで持たれるのはある程度許容し、CBで持たれる事は完全に許した。言わずもがなこれで時間を持つ事ができるのがアンヘリーノとハルステンベルク。もちろんアンヘリーノにはコケが牽制に中央からプレスに行くが、ここの遅れをうまく突かれてしまう。

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このようにアンヘリーノにパスが出るとコケがプレス。もちろん間に合うはずがないので、このプレスは前進させないためだけのもの。そしてリターンを受けるのがハルステンベルク。ここで彼が持ち上がるので、コケは中央に戻るのではなく、2度追いしなければならない状況に陥る。もちろん、このプレスも間に合うはずがないので、突破される可能性が高まる。現に失点シーンはここを突破されてしまっていた。

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もちろんドリブルで侵入してくるのでCHエレーラがプレスに出る。こうするとバイタルエリアでの縦パスのコースが空いてしまう。そしてそこへ縦パスを打たれ、中央を圧縮し切れずにサイドへ展開。失点シーンはこのように中央を1度経由されてサイドに展開され、そしてそこからのクロスでやられてしまった。くしくも攻撃に出るために行った修正が失点に繋がってしまった。

 

だがこの失点でゴールが必須となり、思い切って動く事ができたシメオネ監督。ここで若きスーパールーキー、ジョアンフェリックスを投入。これで一気に流れが変わる事となる。

 

流れを変えたジョアンフェリックス

まさに神童。攻撃で苦しみ抜いていたアトレティコを救ったのは間違いなくジョアンフェリックスだった。ではなぜ彼が流れを変える事ができたのか。それは先ほども少し触れたように、攻撃時、ライプツィヒの守備により、背後へのパスしか出せなかったアトレティコだが、ジョアンフェリックスのポジション取りの巧さで1度ライン間で溜めを作れるようになったから。そして彼の投入でコケを中央に移し、ジョレンテを下げた事で、ビルドアップの方法も変わる。

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このようにCHがコケとサウールになった事でSBを押し上げれるようになる。これでOMFオルモのタスクを2つにして迷わせるように仕向ける。さらにSHに入るザビッツァーのタスクも変更させる。本来、SBへの牽制を行うはずのタスクを近くにCHがいるので、そちらを見させるように。これでSBでじかんができるようになり、さらにカラスコ、ジョレンテ、ジョアンフェリックスが自由にライン間を動く事で、縦パスを引き出す。これで全体を押し上げるじかんが作れるようになり、ジョアンフェリックスにボールを集める事で、攻撃を完結させていった。この交代が見事に嵌り、ジョアンフェリックスとコスタの崩しから得たPKで同点に追いつく事に成功した。

 

無情なショートカウンター

これは補足程度になるが、同点に追いついて流れと勢いに乗ったアトレティコ。ジョアンフェリックスを中心に、攻撃を仕掛け、逆転勝利が現実味を帯びてきていた。だが1つのショートカウンターでアトレティコは失点してしまう。オブラクからのロングパスの先にいたのはこの試合の流れを1人で変え、マンオブザマッチ級の活躍をしていたジョアンフェリックス。彼がうまく収めたかのように見えたロングパスを掻っ攫われ、ライプツィヒはショートカウンターを発動。そして中央を締め、遅らせたかのように見えたが、攻撃的なシフトになっていたので

中盤のプレスバックが間に合わず。シュートブロックに身体を投げ出したが、コースが変わり、失点してしまった。まさに無情なショートカウンターだった。

 

まとめ

アトレティコはこの試合、ライプツィヒの戦い方に苦しみ、そして敗戦を喫してしまった。中央を締めれば、サイドを使われ、サイドを消せば中央を使われる。常に後手を踏んでしまっていた守備。後半になり、サイドを捨て、中央を締め上げる事で対応をしたが、それが裏目に出て失点。攻撃に出るしかなくなったアトレティコはジョアンフェリックスの投入で一時は追いつくが、オープンな展開になり、守備の課題が露呈。これで終盤に失点を喫し、ラウンド8で姿を消す事になった。この敗戦の理由はまさしくナーゲルスマンの戦術にあった。後手を踏まされ、対応に追われてしまった。守備からリズムを作れなかった事も原因だろう。昨日に続き、この試合もサッカーの醍醐味が多く詰まった試合になったのではにだろうか。時間が許せば、皆さんもこの試合を見返してみてほしい。

  

 

また時間があればライプツィヒの攻撃の詳細をまとめてYouTubeにアップしようと考えているのでチャンネル登録して待って頂けると幸いだ。

 

終わりに

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最後まで御朗読ありがとうございました!これからも飽きることなく学び続け、より良いものを共有できるよう、精進して参りますので、これからもどうぞ宜しくお願いします。

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