はじめに
ミッドウィークのCL、ザルツブルクとの死闘を終え、すぐに迎えたリーグ戦。相手は今季大不振で最下位に沈むワトフォード。とは言っても簡単な相手ではないことは確かだ。前線に起点の作れる選手がいて、両脇には推進力のある選手とドリブラーがいる。さらにこの試合のワトフォードはピアソン監督を招聘。彼は奇跡の残留を遂げたレスターを率いていた。そんなワトフォード相手にもしっかりと勝利を収め、勝ち点を積み上げたリバプール。ではどのように崩し、そして勝利を手にしたのか。この試合の解説を務めていた中村憲剛選手の『背後へのパス』の意味を噛み砕きながら紹介していこう。
中村憲剛が語った背後へのパスの意味
DFラインを下げることで起こり得た現象
今回はこれを解説させて頂きたい。
この試合のワトフォードは低い位置でブロックを作り、背後にスペースを与えなかった。そうすることでサラー、マネのスピードを殺すことに専念していた。このラインを下げる意図を解説する前に、ワトフォードの守備についてさらっと触れていこう。
ワトフォードの守備について
このようにワトフォードは前線から積極的にプレスを行わず、ハーフウェイラインあたりまで自由にボールを運ばせて、その間に守備ブロックを形成。ブロックは基本的に4-4-2。OMFとCFでリバプールのCHを消しながら中央を締める。これで中を経由しずらくなり、SBが高い位置を取りにくくなる。この理由は中央を経由できないので、DFの目線を変えることができず、SBが上がる時間を作ることができなくなるから。仮に上がったとしても、SBへのパスを読まれてしまい、パスカットされる可能性が上がるのでこの時点でSBが高い位置を取ることができなかった。さらにSHが少しポジションを上げてSBを牽制。これでリバプールの武器の一つである、SBからのサイドチェンジをさせなかった。これでワトフォードは確実にリバプールの攻撃を抑え込んでいた。
背後へパスを供給する為の準備
ではここから背後へパスを送ることで起こり得た現象を紹介していこう。まず、解説しなければならないのが『背後へのパスを送るための準備』。これがないと元も子もない。ではどのようにして背後へパスを送る準備をしていたのか。
ベタだがリバプールもこのように2トップに対して数的優位を作り出すためにCHがバックラインに降りる形をとっていた。4-4-2のブロックかつハイプレスをかけてこないチームは、上の図の四角のスペースが空くことが多くある。ここをリバプールもうまく使うことでここから背後へのボールを供給していた。
CBの間に立つCF
これは背後でボールを受ける側の選手の準備。この試合のCFはリバプールのエース、サラーが務めていた。彼のポジションの取り方とタイミング、もちろん足の速さがあるからこそ、リバプールのパサーは背後にボールを出すことができる。『CBの間に立つことでその選手が浮いて見える』と語ったこの試合の解説者、中村憲剛選手。まさにその通りで、さらに彼が生粋のゲームメイカーかつパサーだからこそ、この言葉が個人的に響いた。このポジション取りのうまさがあるからこそ、ボールを呼び込み、裏へ抜けることができる。
ライン間の創出と時間の確保
では背後にボールを送ることでどのような現象が起きたのか。
このようにCF(またはWG)が背後を取ることでDFラインが下がる。そうするともちろん空いてくるのがセカンドラインとDFラインのライン間のスペース。ここを作り出すために背後へのボールは有効だ。さらにここで効いていたのがこの試合でも先発出場をしていたWGのシャキリ。彼は「サイドに張る」のではなく、早い段階から内側でボールを受けたがる。これでOMFが降りたスペースにWGが入り込むことでライン間への縦パスを引き出すことに成功。もちろん、ワトフォードはここにボールを差し込まれたくないのでSHがライン間へのパスコースを消す立ち位置を取るためにやや中央に寄る。そうするとボールホルダーのCH(CB)はSBにパス。これでSBに時間ができ、サイドチェンジという武器を存分に使うことができる。これが背後にボールを送ることで起きた最初の現象。
SBの押し上げ
ライン間でボールを受けれるようになったので起きた次の現象が『SBの押し上げ』。
ではなぜこの現象が起きたのか。
このようにライン間にボールが入るようになったことにより、セカンドライン(上の図で黒の四角)の選手を無力化することに成功。さらに目線を中央に集めることができる、尚且つパス一本分の時間ができるので、SBが幅を取り、一列前にポジションを取ることができる時間ができる。またCHがバックラインに入ることで、ボールを奪われた時のリスク管理、SBの背後のスペースをカバーすることができる。このようにしてSBを押し上げることができていた。
全体の押し上げ
そして最後に起こり得た現象。それが全体の押し上げだ。
このようにライン間でボールを受けれるようになると、ワトフォードはライン間の巣prーすを消すためにセカンドラインを下げ、コンパクトに保つ。こうなると後ろが重たくなり、前に出ることが難しくなる。これでリバプールは全体を押し上げることに成功する。SBが高い位置を取れるようになり、時間とスペースを得ることができる。バックラインに入っていたCHもポジション上げれるので、セカンドボール回収とサイドへの展開を一列前で行うことができる。これができるようになったのはワトフォードのOMFが下がって4-4-1-1の形になったから。CFに対して2CBで数的優位を作り出すことができるのでCHが上がれるようになっていた。このようにして全体を押し上げ、ワトフォードを自陣に押し込むことができていた。
まとめ
このように中村憲剛が語った『背後へボールを送る意味』がこの試合でより明確に見られたものだった。1発で抜け出せばビッグチャンス、抜け出せなくても後々に効いてくる。それがライン間のスペースの創出であり、全体の押し上げだ。このことを考えながらしっかりとプレーしているので中村憲剛は的確に解説できたのだろう。そして何よりもサッカーオタク振りを発揮して楽しそうだった。視聴者も満足できる解説だったのではないだろうか。そして今節も勝ち切ったリバプール。徐々にけが人が増えてきていることが少し気にかかるが、あまり負けるイメージがつかない現状のリバプール。果たしてこのまま首位を開け渡さずに悲願のリーグ優勝を果たすことができるのだろうか。ここからが正念場。リーグの結末が楽しみだ。
終わりに
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