16-17 CL 2nd Leg バルセロナ vs PSG 〜手繰り寄せたカンプノウの奇跡〜

 

 

 

スタジアム:カンプノウ

スコア:6-1

得点者

バルセロナ:スアレス OG メッシ ネイマール×2 セメド

PSG:カバーニ 

はじめに

記憶にも新しいバルセロナの逆転突破劇。4-0で初戦を落とし、迎えたホーム、カンプノウでの試合。この試合で逆転突破をするには5点が必要なバルセロナ。先制点、追加点そして3点目と逆転に向け、確実に、そして一歩ずつ進んでいたが、PSGに意地のアウェイゴールを奪われる。さすがのカンプノウも静まり返るが、ホームチームのスーパースター達は諦めていなかった。ここからさらに3ゴールを奪い、世紀の逆転突破をもぎ取る事に成功する。
ではなぜ、このような逆転劇を演じる事ができたのか。そこには確かな準備と熱い思いがあった。ではこの試合のマッチレビュー共に、バルセロナの準備について触れていこう。

 

スターティングメンバー

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守備から試合に入ったPSG

ホームの1st Legで得た4ゴールというリード。PSGの狙いは明かに『守備を固めてカウンター』だった。これを行う事で次のステージへ進む事を狙った。ではどのように守備をおこなっていたのか。

前半のPSGの守備と上手くいかなかった理由

  • 前半の守備

最初に伝えておかなければならないのは、PSGの守備は前半と後半では大きく異なったものになる事。まずは前半の守備から解説を加えていこう。

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前半はボールを持たれると、すぐさま自陣に戻り、ゴール前のスペースを極端に狭くして守り切る意図が見えた。その方法が上の図だ。

最終ラインは「ペナ幅」で守備を行い、OMFが中央に下がり3CHの形を取る事で、OMFのメッシ、IHのラキティッチ、イニエスタを捕まえる形を取る。SHも下がる事で上がってくるバルセロナCBを気持ち牽制する。

このような方法で徹底的に中央を固め、ゴールを破らせない戦術、いわゆる『バスをゴール前に置く』戦術でアウェイでの2nd Legを乗り切ろうと考えていた。

ではなぜ、PSGは前半のうちに3失点もしてしまったのか。

 

  • 守備が上手くいかなかった理由

ではなぜこの守備が上手く嵌らなかったのか。その原因は「サイドでの守備」と「奪い所の不透明さ」があった。

ではまずは「奪い所の不透明さ」から触れていきたい。

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先程も説明した、PSGの守備。その守備は『バスを止める』に等しいものだった。
だが、肝心のボールの奪い所。これがはっきりとしていなかった。
例えば、上の図のような状況で守っていたら、多くの場合はここに「奪い所」を設定する。

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このように中央を固める事で、外へプレーさせ、白丸のエリアにボールを追い込むように仕向けるはずだ。だがPSGの場合は「ボールを外に送らせる」だけで、その先がなかった。

だからただ幅を作らせてスライドさせられるという状況に陥っていた。そしてこの不透明さがもう1つの機能不全を引き起こす。それが『サイドでの守備』だ。

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この頃のバルセロナには左サイドにネイマールというスーパースターがいた。

だから尚更「奪い所の不透明さ」が傷口を広げていった。上の図のように、CBからネイマールにパスが出た場合。この時に前向きにプレーさせたくないPSGの選手はSHとSBで牽制を行う。これで四角のエリアの選手(中盤のライン)はスライドを行わなければならない。

そうしないと、イニエスタまたはスアレスにライン間で簡単にプレーされてしまうからだ。

そして十分に引きつけたところで、ネイマールはバックパス。そこから逆サイドに展開を行う。そうすると、バックラインはペナ幅で守り、中盤のラインはスライドを行なっていたので、逆サイドのラフィーニャはフリーでボールを受ける事ができる。ここの守備の対応にPSGは戸惑っていた。

さらにはこのような場面もよく見受けることができた。

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このように一気に逆のWGまで展開するのではなく、CBにボールが入った場合。この時のSHドラクスラーの守備の対応があやふやだった。あやふやになった理由は、CBマスチェラーノの選択肢の多さだろう。マスチェラーノがここでボールを保持する事で上の図のような選択肢が生まれる。

そこでドラクスラーはプレスに行けばラキティッチ、メッシへの縦パス、プレスに行かなければWGラフィーニャにボールを出され、自分のヘルプは遅れてしまう。だからドラクスラーは守備の対応がかなり難しくなり、サイドでの守備が機能不全に陥っていた。

 

だから前半はボールを奪えないので、カウンターを打てるはずもなく、防戦一方でバルセロナとそのサポーターに希望を抱かせ、逆転突破が不可能ではないと感じさせてしまった。

 

後半の守備

当時のPSGの監督、エメリも流石にこのままでは危ないと感じ、ハーフタイムで修正を施す。それが局所でのマンマークと高い位置からのプレッシングだ。

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後半から明かに高い位置からプレッシングを行うようになったPSG。その方法が上の図のようになっていた。3バックに対してCFとSH、DMFに対してはOMF、IHに対してはCHがマーク、WGに対してはSBがマークを行う。こうすることで何が良かったかというと、バルセロナにタイミングの早いロングパスを打ち込ませなかった。(後述)
さらには攻撃のポジショニングを若干乱すことができたので、ボールが奪えるようになり、さらにはカウンターを打てるようになる。

さらに引いて守る時もメリットがあった。

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マンマーク気味の守備を取り入れた事でPSGの選手のやるべき事がはっきりとし、ボールを奪える回数が明かに増えていた。最も変わったのがSHの役割。機能不全に陥っていた前半は、「守備のタスクが多すぎる」状況だったが、後半からは「CBへのプレス」のタスクが与えられたので、ここにプレスをかける事ができるようになっていた。

このようにした事でCB経由のサイドチェンジが少なくなり、ボールサイドを圧縮でき、カウンターを打てるようになっていた。

だからこそ、カバーニのゴール、さらには2つの決定機、そしてディ・マリアの決定機がカウンターで訪れる事となった。

このうちの1つでも沈めることができていれば、、、と思うPSGファンは多いのではないだろうか。

 

バルセロナの準備とは?

では劇的な逆転突破を手にしたバルセロナはどのような準備を行い、PSGから6ゴールを奪うという、離れ業をやってのけたのか。バルセロナが行った事を1つずつ解説していこう。

まず触れるべきなのは3バックで試合に入った事。この試合の前にも数試合3バックの布陣で臨んでいるバルセロナ。この理由はもちろん『攻撃に圧をかけるため』、そして『高い位置でボールを奪うため』の2つの意図があっただろう。

でまずは攻撃に圧をかけるためにどのように準備していたのかを紹介していこう。

攻撃に圧をかけるために

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このようにここにCBがここにポジションを取る事で、物理的に攻撃の人数を増やした。

さらにここにポジションを取る事で、IHのイニエスタとラキティッチが押し上げられるので、ポケットかつライン間にポジションを取る事が可能になる。

だから先程も少し触れたように、CB経由でサイドチェンジを行う事ができた。

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さらにこの図のように、高い位置でCBがボールを持つ事で複数の選択肢を持てると同時に、PSGにラインを押し上げる時間を与えない。もしも、もう少し低い位置でボールを受けたとしたら、PSGはその移動中に数mラインを上げる事が可能になる。この数mのアップでPSGのカウンターが打てるか否かが決まってくる。だからこそ、バルセロナはリスクを冒してでもCBが高い位置をとりPSGを自陣深くに押し込んだ。

 

カウンターを防ぐために

そしてもう1つの意図。それがカウンターを未然に防ぎ、高い位置でボールを即時奪回する事だ。ではなぜこれが実行できたのか。

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例えば上の図のようにサイドで奪われた場合。PSGのSBは奪った時点で前にボールを送りたい。だからここでボールを出したいのは近くのSH。だがここは高い位置にポジションをとっているCBの餌食になってしまう。では次の選択肢。それが流れるCBへのパス。ここにボールを送ると、CBのピケが流れて必ず対応を行う。ここも出せないので、CHへのパスはどうだろうか。ここもCBとIH、もしくはDMFとCBの対応で一気にボールサイドを圧縮されてボールを失ってしまう。ではその時のバルセロナの立ち位置を紹介しよう。

 

  • SHへの縦パスの場合

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この場合は主にIHのラキティッチとCBのマスチェラーノでSHへプレスを行い、ボールを奪い切る。さらに、この試合のメッシもしっかりと守備を行い、CHを捕まえ、DMFはCFを捕まえておく。逆のCBがバックラインに戻る事で、後ろに人数を揃える。これでリスク管理もできる。

 

  • CFに出す場合

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この場合はSHに対してCBのマスチェラーノがプレスを行う。そうすることで流れたCFへのパスが出てくる。ここに対してはピケが流れて対応。必ずここで潰す事で広い方へ展開させないように、守備を行う。その時に逆のCBがピケが開けたスペースのカバー、DMFが少し下がる事で、リスク管理を行う。

 

  • CHへ出す場合

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この場合が一番人数をかけてボールを奪う。CHへのボールを出す場合はCFがサイドに流れる事が多くあり、その場合はCBのピケが対応に追われるので、中央の守備が手薄になって胃しまう。だからこそ、人数をかけて潰す必要がある。この場合はメッシ、ブスケツ、ラキティッチでボールサイドを圧縮してボールを奪う。

 

これらの守備を行うためにCBが高い位置をとり、カウンターを未然に防いでいた。

だからバルセロナは3バックで試合に臨んだのだろう。

 

タイミングの早いロングパス

次に触れるべき事がタイミングの早いロングパスだ。本来のバルセロナならば、盾へのロングパスはあまり使わず、ショートパスで相手陣内に入り込んでいく。だがこの試合は少し違った。ロングパスを使用する事で、早めに敵陣に入り込み、PSGを押し込む事を狙った。

このようにする事で、自分たちは前向きに2ndボールに反応し、ハイプレスを図った。

だから普段よりもロングパスが多かった。

 

サイドチェンジを行うために

特に前半、バルセロナはサイドで優位に立つ事ができた。その要因の1つはネイマールの存在。そしてもう1つ。それがラキティッチの抜け出しだ。これにより、右から左へのサイドチェンジを可能にした。ではどのように可能にしていたのか。

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このようにIHが内から外に抜け出す事で、WGがカットインするための時間とスペースを作り出す。そしてここから一気にサイドを変える事でネイマールに時間を与える。このれを行うために、WGに左利きのラフィーニャが入り、サイドチェンジの質を高めた。またカットインした時に、メッシが中央にいる事で、中央のPSGの選手は迂闊にラフィーニャに飛び込めない。だからこのような事が可能になった。

 

後半のIHの役割

後半に入り、バルセロナはアウェイゴールを奪われてしまう。これで万事休すかと思われたが、ピッチの選手は諦めていなかった。だから失点直後にIHのイニエスタに変えて、アルダ・トゥランを投入。この投入にはどのような意図があったのか。

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逆のIHラキティッチは前半からこのように内から外に抜け出す事を行っていた。今度はこれを左サイドでも行った。だがこの意図は右サイドとは意味合いが違い、ネイマールにカットインから決定的な仕事を行なってもらうためのものだった。

だからIHに入ったアルダ・トゥランは中央のスペースを開けて、ネイマールを泣いたるエリアへと侵入させる手助けを行った。だからネイマールは後半、特に64分の交代の後からカットイン⇨シュートの形を何度か見せていた。

 

バルセロナはこれらの準備と対応により、不可能と思われた逆転突破を果たし、そしてこのシーズンのCLを制して見せた。数試合に及ぶ準備、そしてそれを実行する技術とIQ、さらには強い意志が手繰り寄せた、劇的な勝利だった。

 

まとめ

このシーズンの試合。ちょうどロンドン留学でこの逆転劇を肌で感じていた。

語学学校で仲良くなっていたスペイン人の友達と一緒にパブリックハウスで見ていたのが今でも鮮明に覚えている。お互いにバルセロナファンでもPSGファンでもなかったが、それでもこの試合で起こったことに鳥肌と込み上げてくる熱いものが抑えきれなかった。

それぐらい、熱い試合で選手の闘志が画面越しから伝わってきた。

そしてそんな試合を今見返すと、闘志の上にしっかりと戦術できな要素が沢山積み上げられていた。だからこそ、世紀の大逆転劇が起こったのではないだろうか。

何度も見返すことのできるこの試合。みんさんももう一度、見返してみて欲しい。

また違った感動と発見ができるかもしれない。

 

終わりに

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