〜色褪せないビッグマッチ。アーセナルの守備とリバプールの攻撃〜 08-09リバプール vs アーセナル

 

スタジアム:アンフィールド
スコア:4−4
得点者
リバプール:トーレス×2 ベナユン×2
アーセナル:アルシャビン×4

はじめに

まだ『ビッグ4』と呼ばれていた頃。
トーレスが赤いユニフォームを見に纏い、長髪の金髪をなびかせて、強引にゴールを奪う。そうかと思えば、バックラインではキャラガーが相手を叩き潰し、チームの鼓舞と緊張を保たせる。
アーセナルには若きセスクとナスリという、生粋のテクニシャンがリバプールを翻弄し、アルシャビンがアンフィールドで4ゴールを奪うという、離れ業をやってのけた。

10年も前の試合とは思えない、インテンシティが高く、そして内容の濃い一戦だった。「こんな試合もあったな」のレベルではなく、1シーン、1つ1つの記憶を呼び起こしながらの観戦となった。
当時、中学生の僕とはまた違った視点から試合を見る事ができ、とても有意義なものとなった。

では今回はこの名勝負についてのマッチレビューをしていこう。

スターティングメンバー

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リバプールにジェラード、アーセナルにフェンペルシーとアデバヨール。この選手たちが怪我で居ない事が唯一の悔やまれる点だったが、それでも豪勢なメンバー。このスターティングメンバーを見ただけでも郷愁に浸る事ができる、ビッグゲームだ。
では早速、レビューに移っていこう。

リバプールのざっくりとした攻撃戦術

まず触れるべきはリバプールの戦い方について。リバプールの戦術は今と似ていて、「縦に早く」というものだった。
ボールを奪うと、トーレス目掛けてロングパスを入れる。そうする事で全体を押し上げ、そしてハイプレスを仕掛ける準備を行う。
だからこの試合はプレミアリーグらしく、「早い」展開で、観る者を飽きさせない、エキサイティングな展開になっていたのではないだろうか。
では、リバプールのこの試合の狙いについて、詳しく紹介していこう。
だがその前にアーセナルの守備戦術について触れていく。

アーセナルの守備と機能しなかった理由

この試合のアーセナルの守備戦術が機能していたかというと、僕は「していなかった」と感じた。その守備方法と機能しなかったであろう原因をまずは突き止めていこう。

  • 守備戦術について

まずは守備をどのように行なっていて、どこでボールを奪う狙いがあったのか。
これから解説をしていこう。

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基本的な守備の配置は「最もバランスが取れる」とされている4-4-2。だがこの試合に関しては、リバプールのビルドアップと戦術の関係で噛み合わず、機能不全に陥りかけていた。(リバプールについては後述)
アーセナルはリバプールが後ろから組み立てを行い始めると、CFのベントナーが気持ち牽制をかける。それに呼応してSTのセスクがCHのどちらかを捕まえる事で中央を経由させないように守備を行う。現在でもよく見受ける事のできる方法だ。

そして中央を経由させない事で、SBにパスを出させる。この時にCFトーレスへのロングボールの対応のためにCBが2枚でマークを行う。

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さらにボールサイドのSH、ここではアルシャビンがリバプールSHを背後で消す立ち位置をとる。このようにする事でSHはSB、CH(必要であればCB)にプレスに行けるようになる。

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またリバプールSBにボールが出た場合は、SBのサニャがプレス、CHのマスチェラーノにパスが出た場合はCHソングがプレスを行う。この時にCHのデニウソンがスライドを行い、中央のスペースを埋める事で、サイドを狭くてしていき、前進させない、ボールを奪う事を狙っていた。

だがいくつかの要因により、アーセナルの守備は機能したとは言い難い状況に陥ることになる。

守備が機能しなかった理由

  • CFベントナーの守備意識

まず、4-4-2の守備ブロックを機能させるために必要なのがCFの守備意識。
レスターが優勝できたあのシーズン。CFのヴァーディーと岡崎の守備意識の高さがあったからこそ、シーズンを通して徐々に堅守に変っていき、そして優勝を成し遂げることに成功した。
ここから理解できるように、まずはCFの守備意識が必要なのだが、この試合のベントナーは守備の意識が低く、ここから全てが1つずつズレていった。

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CFのベントナーがCBにプレッシャーを与えないので、簡単にロングパスをCFのトーレスまたは逆のSB、SHに送られる事が多々あった。そこでこれをさせまいとボールサイドのSHがプレスを行う。そうするとどうなるのか。
上の図でいくと、アルシャビンがプレスに出た事により、CHのソングはマスチェラーノのカバーとSHリエラのケア、SBのサニャに関してはSHのリエラに気を取られるので、SBアウレリオのところまでプレスに行く事が難しくなる。
そうするとこのような状況に陥っていく。

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このようにSBアウレリオで時間を作られるようになる。ここから逆サイド、または背後にボールを供給されたくないアーセナルはCHのソングがSBまでプレスを行う事になる。これで中央に残っているのはもう1人のCH、デニウソンのみになってしまう。
このように中央が手薄になっていく事で、アーセナルは守備が機能しなくなっていった。

  • 逆サイドのSHのスライドがない

根本的なところがもう1つ。それが中盤のラインのスライドだ。CHのデニウソンはしっかりとソングが開けたスペースの補完を行っていたのだが、SHはこれをサボっている事が多々あった。ではここが機能しないとどのような状況に陥ってしまうのか。

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このようにスライドを行わない事(全く行わない訳ではない)で白のエリアに広大なスペースが生まれる事になる。ここを使われると一気に不利な状況になってしまう。その理由が、SHの背走だ。

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このように背走をしていまう事でSHは無力化、さらに局所で数的不利に陥ることになる。ここをスライドし、予めスペースを埋めることができていれば、大外へのロングパスになるので、スピードを上げられて攻撃されることはなかっただろう。

  • リバプールのロングパス戦術

そしてもう1の要因。それがリバプールの攻撃戦術だ。明かにこの試合はリバプールの攻撃戦術とアーセナルの守備戦術の噛み合わせは悪かった。だからこそ、似たような形で4失点も喰らうこととなってしまった。では次はリバプールの戦術について紹介していこう。

リバプールの戦い方

1番最初にも触れたように、リバプールの攻撃戦術は「トーレスへのロングパス素早く攻める」というものだった。だからそのための準備と、ロングパスを送る場所、そして2ndボールの回収と即時奪回に気を使って、組み立てとポジション調整を行なっていた。ではどのように攻撃を組み立て、そしてポジショニングしていたのか。

  • ビルドアップ

まずはビルドアップの局面から触れていこう。
リバプールはここで優位に立つ事で、ホーム、アンフィールドで攻勢に出てエキサイティングなゲームを演じて見せた。

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まずは基本的な準備として、CHのアロンソがバックライン付近に降りる事で2トップに対して、数的優位を作り出す。もっと詳細にいうと、STのセスクを高い位置に引き出す事を狙っていた。
さらにこうする事でSBが高い位置を取れるようになり、SHが中に入ることが可能になる。またCHのマスチェラーノも1.5列前にポジションを取る事が可能になる。ここでの準備は「ロングパスを打つ」準備だ。
ではなぜこれがロングパスを打つ準備となり得たのか。

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それはここにスペースを作る事ができるようになるから。少し前にでたCHのマスチェラーノとSBのアウレリオにボールを1度預ける事で、CHのソング、SBのサニャ、SHのアルシャビンを動かし、前に引き出す事ができる。そうすると、白の四角のエリアにはCHのデニウソン1枚になる。これがロングパスを打つための準備となり得た。

  • ロングパスを供給と2ndボール回収

ではこののような準備を行った上で、ロングパスを供給する場所と、なぜそこに送る事が多かったのかを解説していこう。

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まず最初に狙っていた場所。それがCFトーレスへのボールだ。背後にももちろん、ターゲットとしてロングパスを送り込んでいた。
ここにボールを送る事にどのような狙いがあったのか。

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まず1つ目の狙いがSHへのフリックへのボール。これでチャンスを作り出す。実際にトーレスの同点ゴールはこのような形から生み出している。
そしてもう1つの狙い。それが2ndボールの回収だ。両SHが中にポジションをとり、さらに運動量のあるOMFのカイト。それに加えてビルドアップの時点でアーセナルの中盤を手薄にしているので、ここで即時回収し、2次攻撃に繋げる事ができる。これがCFトーレスへロングパスを打つ理由だ。
そしてもう1つの場所がこちら。

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それがOMFカイトまたはSHベナユンへのロングパス。ここにボールを送り込む事で、優位にたった。そしてここにボールを送る事ができたのも、アーセナルの中盤の人数を動かして削ることに成功していたから。
カイトまたはベナユンがボールを受けて前を向く事で、トーレスはゴールに向かう準備ができ、さらにはSBのアルベロアの攻撃参加を促す事ができるようになる。
このようにしてロングパスを供給する場所を2つ作る事で、守備を絞らせず、さらには2ndボールの回収で未然に攻撃を防ぎ、早い攻撃を仕掛けていった。
そのためにSHが中に絞り、中央に人を集め、さらにはSBの攻撃参加を促すことにも成功している。

リバプールの守備について

もう1つ気になるのは守備。リバプールは基本的にハイプレスを仕掛け、フルスロットフットボールを敢行していた。
そのため、2ndの回収ができない場合や中盤のライン(SH、OMFのライン)を突破されるとピンチになる事が多かった。

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このように突破される時のパターンとして、STのセスク(場合によりSHのナスリ)が降りて来た場合に突破される事が多くなっていた。リバプールも4-4-2の形で守ることが多くなっていたのだが、数的不利に陥る事で突破される。だが、現在のリバプールと似ている所があり、OMFカイトの運動量を生かしてのフォローと、CBの対応で捻じ伏せる事が多々あった。
だから4失点とも全てクリアミスで、防げた失点だったのではないだろうか。

まとめ

10年前の試合とは思えないほど整理されていた戦い方。
特にリバプールは最前線のエースストライカーをどのように生かすのかという大前提のもと、しっかりとチームを作りあげ、そしてプレーヤー全員がその戦い方を共有できていた。この頃のリバプールも強かった理由がわかる一戦だった。
アーセナルはインビシブルズからの世代交代もあり、ちぐはぐした所は見受けれたものの、その才能の片鱗を見せつけるプレーをしていた。
お金の問題もあり、大型補強をせず、ここまで戦えるチームを継続して作りあげていたベンゲル監督は改めて凄いと感じるものだった。

ロングパスのメリットや4-4-2の脆さと強度を保つために必要な事を今一度、確認できる良い試合なので、ぜひレビューを読んでもらい、試合を見返してほしい。

 

終わりに

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