はじめに
昨シーズンのビッグマッチ。この試合を記憶している人は多くいるのではないだろうか。
智将サッリ監督とグアルディオラ監督の意地のぶつかり合い。そしてこのビッグマッチを制したのは当時チェルシーを率いていたサッリ監督。この試合で感じた事は「やはりサッリ監督はイタリアの監督なのだな」という事。
攻撃的なサッカー、ボールを握ることを好むサッリ監督だが、この試合のために準備してきていたものは、守備から試合に入ること。この緻密な守備戦術こそがサッリ監督がイタリアの監督だということをし認識させた。
ではこの試合、どのようにしてチェルシーは圧倒的な強さを誇っていたペップ・シティを完封し、勝利を収めたのか。今回はこの方法を紐解いていこう。
スターティングメンバー
これがこのシーズンの両チームのスターティングメンバー。
ほとんど両チームともほとんどのメンバーが変わってないが、このシーズンはお互いにCFに悩まされていたシーズンだった。そのためCFにはチェルシーはアザール、シティはスターリンングが入ることになった。
この採用にも意図が隠されていたので、後に解説をしていこう。
ではこの試合のレビューをしながらサッリ監督が準備をしてきたゲームプランについて紹介していこう。
勝負に勝ち、試合に負けた前半
前半はほとんど牙を剥くことができなかったチェルシー。
ほとんどの時間帯で防戦を強いられ、前半唯一のシュートがゴールに繋がった。
だがこのゴールを奪うためにチェルシーは守備的な戦い方で試合に入った。
ではどのような守備戦術、守備的なゲームプランを用いていたのか。
チェルシーがやりたかった守備戦術
これがチェルシーが用意してきた基本的な守備の入り方だ。
まず1番の特徴。それが白の四角のエリアだ。ほとんどペナルティエリアの幅で構える事で中央へのパスコースを徹底して消す。こうする事でIH、D・シルバとB・シウバへの縦パスを入れさせないようにする。特にこのシーズンのこの2人。ライン間でボールを引き出す動きとそのポジショニングでライン間でボールを受けてチャンスを多く創出していた。
だからサッリ監督はレーン2〜3を徹底的に消す守備戦術を採用。
そしてさらにはDMFのフェルナンジーニョに対してDMFのジョルジーニョが牽制を行う事で組み立てを参加させない事とここを奪い所に設定していた。
そして中央を締めた事でボールを外回りにさせる事に成功。このようにする事で奪い所を青のエリアに設定。
SBにパスを出させ、それと同時にWGが牽制。さらにボールサイドのIH(ここではコバチッチ)はシティのIHへのパスを消す。これでSBにパスを出させてボールを奪う。
このようにWGにパスが出ると同時にSBがプレスを行いボールを奪う。この時にもちろんバックラインが横スライドを行う事で互換性を保つ。
さらにIHとDMFが縦スライドを行う事で中央のスペースを埋める。これでボールを奪うと、カウンターを仕掛けることができる算段だったのだがそうはいかなかった。ではなぜうまくいかなかったのか。
チェルシーが上手くいかなかった理由
チェルシーの前半はシティの前進方法とその剥がし方によりかなりの苦戦を強いられた。
ではどのようにしてシティは守備網を掻い潜っていたのか。なぜチェルシーは上手く嵌めて奪うことができなかったのか。
1:CBvsCFの数的不利
まず1つ目に挙げられるのがCB vs CF の場面。チェルシーサイドだと数的不利、シティサイドだと数的優位になる状況だ。
シティは必ずバックラインで数的優位を作り出すのでサッリ監督はここの対応を「ある程度放棄」していた。だが前半はここを放棄した故にうまく守れなかった。
それがCBラポルテの存在だ。
左利きのCBのラポルテの存在。上の図のようにSBとパス交換を行うことでチェルシーはノールサイドに若干寄ることになる。そして一気にラポルテから逆サイドへの対角線のパス。
左利きなので身体を開いた状態でボールを受けることが可能になるから視野を確保しやすく、右利きよりもワンテンポ速くボールを供給できる。だからバックラインのエリアで数的不利に陥っていたチェルシーはラポルテを消すことができずに幅を効果的に使われて後手の守備に追われていた。
2:CFスターリングの動き
次にチェルシーが上手く守れなかったのはCFのスターリングの存在だ。
ではなぜ彼の存在が上手くいかない原因となっていたのか。
この上の図のようにスターリングがCBからボールを引き出すために降りてくる動きを入れる。これができるのはDMFのジョルジーニョがDMFのフェルナンジーニョを牽制するために前めのポジションを取っているから。
これでスペースができるのは赤丸のエリア。ここに逆のIHがポジションを取るので、コバチッチはスターリングをマークすることができない。だからシティは白の四角のエリアで数的優位を作り出すことに成功。そして相手を見てプレーを変える。
このようにCBラポルテは多くの選択肢を持てる。
CFへの縦パス、IHへの縦パスに加えてチェルシーCBがCFスターリングを捕まえるために前へ出てくるようであればWGのサネへの背後へのパス。
このようにしてチェルシーは守備が嵌まらず、シティはゲームを支配した。
3:シティのIHへのボールの届け方①
チェルシーはCBを自由にさせていることで上手く嵌っていなかったのでCBを牽制するように戦い方を少し変更する。
だがこうなると、シティIHへのパスコースができてしまう。このボールの届け方はシンプルだがとても効果的なものだった。ではシティはどのようにしてボールをIHのD・シルバまたはB・シルバに届けていたのか。
まずチェルシー。IHがCBにプレスに行くと、もちろん中央を消すためにWGが若干中のポジションをとり、ライン間にポジションを取るIHを消す。これでCBからの縦パスは消せるのだが、空いてくるのがSB。そしてシティはそのSBにパスを出す。
このようにIHが前に出たことでその背後には広大なスペースが生まれることになる。ここを使うのが上手なシティ。SBにパスを出すことでIHについていたWGを引き出す。これでIHがライン間でボールを受けることができる。
さらにWGが追り出されなかった場合はSB⇨WGの順にパスを回すことでチェルシーWGを敗走させ、シティIHはすぐに内側にサポートを行うことでSBの対応を難しくさせる。
これがシティの低い位置からIHを使う方法。
4:シティのIHへの届け方②
そしてもう一つがアタッキングサード付近でのIHへのボールの届け方。
特に前半はチェルシーの守備の穴を突くことでIHが効果的にボールを受けることができていた。それが上の図だ。先述したようにチェルシーはWGにボールが入った所をボールの奪い所としていた。
だからIHはWGへプレスを行うことで数的優位を作り出し、ボールを奪うことを試みた。
さらにDMFのジョルジーニョは中央(逆のIHのD・シルバを消すため)のスペースを埋めた。
そうすると空いてくるのがボールサイドのIH。シティの選手はプレスを受けても確かな能力を発揮できる選手が揃っている。だからこそ、WGからシンプルに中にパスを出すことでIHがフリーでボールを受けることができた。
この4つがチェルシーが前半、上手くいっていなかった理由だ。
戦況を大きく変えた対角線のパスと先制点
ここまで紹介したようにチェルシーはシュートを打てず、さらにはCKも得ることがないまま、前半を防戦一方で終えるかと思われた。だが戦況を大きく変えたのはCBのD・ルイスからの一本の対角線のロングパス。
シティに何度も打たれたこの対角線のパスでチェルシーは一気に後半からの流れを掴む。
この一本のパスがあり、そして先制点を奪ったからこそ、後半のシティの守備の対応を変えさせ、綻びを生じさせた。
シティにはラポルテ、チェルシーにはD・ルイス。「司令塔」の役割をこなす選手が徐々にポジションを落としていることの答えが容易に理解できる良い試合だった。
勝負にも試合にも勝った後半
前半終了間際の先制点により、チェルシーは後半から試合を優位に進めることができるようになる。ではなぜ試合を優位に進めることができ、そして用意していたゲームプランをほぼ完璧に遂行することができるようになったのか。
その理由について触れていこう。
1:シティの守備戦術の変更
シティは後半から明確な守備の変更を行った。では前半と後半の守備の配置の違いを比べ、確認してもらいたい。
これが前半の守備。基本的に前から圧をかけサイドを圧縮して高い位置でボールを回収する。その時にIHのB・シウバが前に出てCBにプレスを行い、CFのスターリング、(30分あたりからマフレズがCF)がGKと逆のCBにプレスに行ける場所を取る。IHが前に出たのでWGがIHを牽制。また逆のIHが横スライドを行い、DMFを牽制。これでSBにパスを出させる。
SBにパスが出ると、特にRSBのウォーカーはLSBのアロンソまでプレスに出ることが多かった。そしてバックラインも極端にスライドを行う事で、ボールサイドを狭くし、高い位置でボールを奪い切る守備を行なっていた。
だがこの守備の弱点として、「対角線のロングパス」に極端に弱い。だから前半の終了間際、CBからのロングパスで広い方に展開され、後手の守備になり失点をしてしまった。
それに伴い、後半からこのように配置を変える。
後半からCF(もしくはIH)が逆のCB、特にD・ルイスに対してマンマークを行うことで対角線のロングパスを防いだ。
だがこうするとサイドを圧縮する強度下がってしまうのでSBがSBに対してプレスに行く頻度が減った。これは万が一の場合を備えてのことだろう。
だがこの守備の変更により、チェルシーは時間を持てるようになり、簡単に(このレベルの選手だから)前進できるようになった。
ではどのように前進をするようになったのか。
2:WGが下がってボールを受けるようになる
前半はボールを受けることが厳しかった両WG。それはシティの守備に関連していたのは言うまでもない。だが先に述べたようにシティの守備の変更により、WGがボールを受けれるようになった。これによってチェルシーは早い攻撃を仕掛けれるようになる。ではどのようにボールを受け、そしてどのように攻撃を完結させていたのか。
シティはSBにボールが入るとIHをマークしていたWGがプレスを開始。
そうすると空いてくるのが白丸のスペース。前半はここにIHが流れることが多くなっていたのだが、シティSBがチェルシーSBまでプレスに行かなくなったので、ここにスペースが空いていた。このスペースにWGが降りることで何が良かったのか。
このようにWGが降りる事でシティSBの判断を難しくさせる。
もしもここでプレスに行けば走力のあるIHが抜け出すことができ、来なければWGがそのまま運ぶことができる。
これに似た攻撃を前半から仕掛けようと試みていたが、前半はIHがサイドに流れるので後ろから飛び出す選手がいないこと、さらにシティの守備が高い位置からのハイプレス(特にSBの位置)だったので、このような攻撃を仕掛けることができなかった。
だが後半から明らかにWGが降りてボールを捌くことが多くなっていたので、ハーフタイムに指示があったのではないだろうか。
3:見えてきたCFアザール起用の意図
WGがサイドでボールを引き出すことで前進できるようになったチェルシー。この現象が生まれたことで、CFで起用されたアザールの意図がここで見えた。
前半はアザールの頭上を超えるボールが多くなっていたが、後半からしっかりと足元へのパスが入るようになっていた。
ちょうどこの図のようにWGからアザールへのパスが多くなっていた。
そしてCFでアザールが起用された理由は状況判断能力とボールの扱い(キープ力、ドリブル、フリック)に長けた彼をCFで使うことにより、中央で時間を作ることができるからだ。時間を作るだけならジルーで良いのではないのかと思うかもしれないが、この試合は守備から試合に入るプランだったので、必然的にカウンターが多くなる。そこでよりスプリント力のあるアザールの起用だったのだろう。
またシティSBを釣り出すことができた場合に、アザールならサイドに流れてゴールへ向かって仕掛けることが可能だ。だからアザールをCFで起用したのではないだろうか。
仮に前半同様、アザールの頭上を超えるボールが引き続き多くなっていたのなら、70分あたりでジルーを投入していたはずだ。
4:守備戦術の修正
後半から攻撃を仕掛けれるようになったのは守備での修正が入ったから。
前半は明らかな後手の守備だったが、後半からはほぼ完璧に嵌めて奪うことができていた。
ではどのように修正を行なったのか。
まず1つ目の修正がこうなっていた。
CBに対してCFとIHが牽制を行う。このようにしたことで、CB(特にラポルテ)からの展開w防ぐ。そしてもう1つの懸念材料がIHへボールが入ること。これを前半は許していたから本来奪うたいWGでボールを奪えなくなっていた。だから逆のIHが中に絞り、逆のWGが少し下がったポジションを取る。これでボールサイドのWGは存分にSBにプレスに行けるようになる。
そしてこのようにWGにSBがプレスを行えるようになったので、ボールを奪えるようになっていた。
そしてもう1つの修正。それがディフェンディングサード付近での修正だ。
前半はこのようにIHを使われていた。(下の図)
これはジョルジーニョが中央のスペースを優先的に埋めていたので、このような状況が生まれていた。だが後半からはこのように修正を施した。
このように中央を埋めるのではなく、しっかりとIHを捕まえるようになっていた。こうすることでボールを持ったWGはパスコースがなくなり、数的不利の状態でドリブル突破、またはキープをしなければいけなくなる。
この2つのちょっとした守備の修正により、守備が嵌るようになる。いかに速くちょっとした修正を施すこと、そして細部までこだわる事が重要かが理解できるものだった。
まとめ
サッリ監督は後半に起こり得た事を前半から実行しようとしていたのではないだろうか。
だが前半はシティの準備とそれを実行する強度が高かったので思い描いたゲームプランを実家応する事ができなかった。
だが一本のロングパスとそれによる先制点、そしてハーフタイムでの的確な修正により、再びゲームプランを立て直すことに成功した。
さすがはサッリ監督。しっかりと的確な指示を送っていた。
個人的にはこの試合を見返せば見返すほど、『チェルシーが先制点を奪えなかった状況でどのような修正を施すのか』という世界線も同時に見てみたかった。
お互いにゲームプランを構築するアイディアを多く持っている監督だからこそ、このような目を奪われる試合を行えたのだろう。
やはりサッカーは複雑で面白いと感じることのできる、好ゲームだった。
皆さんももう一度この一戦を見返してみてはどうだろうか?
終わりに
最後までお付き合い頂きありがとうございます。この場を借りまして、SNSなどの紹介をさせて頂きます。
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